わたしは、ふた目と見られぬような娘、四つん這いになって獣のように唸りながら歩き回る、白痴で、無垢な異形の娘を、世間から庇って家の中で守り育てた、あの女のようになりたかったのだ。この子供を生んだとき、彼女の絶望があまりに大きかったため、おそらく、絶望がそれ以降彼女の人生の本質となったのだ。彼女は、この怪物を愛すること、徐々に形成されたのち彼女の胎内から生れ出た、この醜悪さを愛し、それを敬虔に建立することを決心した。彼女は怪物という観念を大切に納めた祭壇を彼女白身の裡に設けた。そして、日々の仕事に硬く荒れているにもかかわらず限りなく優しい手の、献身的な世話と、絶望した者たちのあの我武者羅な執拗さとをもって、彼女は世間に対抗し、世界に対して彼女の怪物を擁立したのだった。それはやがて彼女の裡で世界そのものの規模と力とを獲得した。そしてこの彼女の怪物を中心としてまったく新しい原則による別個の秩序が形成されたのであり、それを破壊しようとして世界のもろもろの力が絶えず彼女にぶつかってきたが、それらの力も彼女の娘を匿っていたその住居の壁の中へは一歩も入ることはできなかったのである。

ジャン・ジュネ『泥棒日記』



泥棒日記 (新潮文庫)泥棒日記 (新潮文庫)
(1968/01)
ジャン・ジュネ

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2009.02.18(22:58)|資料・記録コメント(0)トラックバック(0)TOP↑
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古谷 葵

Author:古谷 葵

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