先日、西牧徹・林アサコ二人展『貪婪の戯画』展を拝見してきた。ギャラリーでは西牧徹さん、林アサコさんとお話しさせていただいたり、[All Tomorrow’s Girls]のfumi_oさんにお会いしたりなど、作品拝見とともに楽しく充実した時間を過ごすことが出来た。最も印象に残った、西牧徹氏の新作『海灯』と林アサコさんの新作『かのこ』の、二作品の感想を忘れないよう記しておきたく思う。

『海灯』は美しい作品だ。夜、電灯の点された暖かい家のなかで、キエムクー(西牧徹の“福画”として創られたキャラクターで姿形はクマに似ている)がうたた寝をしている。テーブルには飲みかけのホットコーヒーが一つ。後ろに見える窓の外では、雪が深々と降っていて、静寂が時を包んでいる。眠るキエムクーは夢を見る。夢は夜の闇と溶け合い流れ出て、いつしかそこは深い海へと繋がっていく。大きく細長い滑らかな魚が、キエムクーの夢を、夜の海を、悠然と泳いでいる。無限に広がる静謐な世界。西牧氏の作品は、“艶画”“福画”を問わず、子供の頃の記憶を感覚を揺さぶり呼び起こされることが多いが、今回の作品では更に深遠に在る古い記憶に触れられたような感覚がした。寒い夜に暖かい家に守られて眠りにつく幸福のなかで、いつかいた懐かしき海へと深く深く潜っていく。それはまるで胎内回帰のようでもある。鉛筆で細緻に描かれている幻想世界はわたしの心に静かな温かさを灯してくれた。

林アサコさんの作品『かのこ』は、ギャラリーに足を踏み入れた瞬間、一番最初に目に飛び込んできた作品だった。華やかで大胆な色彩は視線を絡め取り引き寄せる。見ると紫色を帯びた大きな貝の中から女の子が顔を出していた。御膳に置かれたこの貝は新鮮な海のご馳走なのだろう。女の子の、曲線で描かれた肢体と輪郭、真夏の日差しに照らされ溶けていく飴玉のように甘くぺとっとした皮膚感覚を呼び起こす瞳、磯の香りと潮風が浸み込んでいるであろう頭上に二つに結われた黒い髪……、貝は鎧となっている殻を抉じ開けてしまえば、弾力のあるつやつやとした美味な肉が隠されている。噛めば弾けて濃厚な汁が口の中いっぱいに広がっていく。婀娜めいた憂い顔を浮かべているこの女の子も同じである。なんとも美味しそうなのだ。生殖目的ではない性行為は快楽であり、生命維持ではない食も快楽である。飽くなき欲望に身をまかせれば退廃に身を滅ぼし何れは悪臭を放つこととなる。今回の展覧会の題である“貪婪”に相応しく林アサコの描く女の子は見る者の欲望を駆り立てる。しかし、間違ってはならないのは誰よりも貪欲なのは描かれている女の子たちの方であるということだ。欲望も何もかも余すことなく飲み尽くし、それでももっと欲しいとねだっている。恐ろしくも美しく強靭でいて柔らかい女の子たちは、まるで“海”そのものだ。だからこそ魅了され続けてしまう。

二人の作品から感じた姿も性質も違うそれぞれの“海”と戯れたひと時だった。

西牧徹/黒戯画世界 Blacken Caricature/Toru Nishimaki
林アサコ's Portfolio
2010.03.11(23:13)|展覧会感想コメント(2)トラックバック(0)TOP↑
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