蝙蝠と蛞蝓の宴展覧会感想
> 清水真理のフリークス人形
清水真理・人形展「片足のマリア~Strange Angels Garden~」』が終了してからもう一月以上が経ったというのに、わたしの心はいまだ隙あらば人形たちが展示されていた“異形のサアカス小屋”へと戻ろうとしている。そこにいた腰の一部が結合している双生児のように、あの空間で得た記憶と感覚が、わたしの背中にべったりと癒着したまま離れない。

今回の展示が行われたギャラリー“パラボリカ・ビス”は、薄いオレンジ色をした建物だ。その素朴な外観からは内部でいかに濃密な世界が繰り広げられているか想像もつかないに違いない。今回の会期中にわたしは二度そこを訪れた。一度目はヴィクトリアンアンダーグラウンドパフォーマンスグループ『Rose de Reficul et Guiggles』による退廃と倒錯の美に溢れた迫力の舞台を楽しむため、二度目は清水真理さんの人形を再度じっくりと拝見し、その世界を堪能するためである。

建物に到着するとまずは二階で展示料を支払ってから人形のある一階の展示室へと向かった。重い扉をゆっくりと開けると壁も床もコンクリートに囲まれた物寂しい部屋があらわれる。そこに深紅の布で覆われた空間が出現していた。まるで相も変わらぬ町並みを歩きながらふと横道に入ってみると目に飛び込んできたテント小屋のような、空想のなかに住む古きロンドンの巡業の如き趣きがある。天井から青い魚のオブジェが下げられていて、それが矢印となってテントの中の順路を示してくれていた。

今回のテーマであるフリークスにならって展示されている人形はみな一様に異形である。それぞれの人形にはタイトルと共に物語が一文添えられている。そこには、実在の人物についてであったり、神話がモチーフとされていたり、なかには悪名高いナチのメンゲレ博士が行った実験体としての双子の逸話や、岩井志麻子の恐怖小説『ぼっけえきょうてえ』がそのまま題とされている人形もある。特徴とすべきは、殆どの人形たちはみな、ファンタジーの産物としての異形ではなく、かつて医学書で眺めたことがある自然に産まれた畸形の姿をしているということであった。

画一的でない身体が禁忌であった時代から倫理問題により不可侵の存在となった時代の歴史なかで、見世物として特別な身体を誇っていた時代も確かに存在した。その身体は恐怖と神聖を、嫌悪と憧憬を、矛盾する様々な感情、もしくは純粋な好奇心を引き起こさせることで人々を楽しませ惹きつけていた。そう、“不具”ではなく“特別”であったのだ。現代では道徳の名の下に、畸形に対しての諸々の感情は密やかに語り継いでいくしかなく、その秘密裏の語りのなかで、かつての見世物小屋のフリークスたちは幻想の力によって補強され、人権への蹂躙は美によって看過された。

そして今展示では清水真理の手により、幻視者たちの力により新たな意味をもって変容していった畸形たちが、人形という存在で具現化されたのである。

コンクリートの壁と赤い幕とで二重に外界から遮断された空間で、抑えられた照明のなか、愛らしくも無垢な容貌をした異形の人形たちに囲まれていると眩暈に襲われたかのように酩酊とした心地になってくる。過剰や欠損した身体が並んでいるなかでは、正しき形など存在しない、ならばわたしもまたひとつの異形の肉体としてここに立っているのだ。そう考えると足元が揺らぎ現実が希薄となっていく。人面瘡の女性、結合性双生児の少女たち、両足が分割していないが為に人魚となった少女、脚の関節が逆に曲がることから駱駝と呼ばれた少女……、皆が大きなガラスの目でじっとこちらを見つめている。

布で仕切られた最奥の部屋では、他の部屋の人形たちと違い、人工による畸形の姿が多く見受けられた。展覧会の表題となっている不老不死になるために改造され続けている少女『片足のマリア』をはじめ、肢体に刺青を入れている少女、纏足された足をこちらに掲げて誘惑しているかのような少女など、美を求めることが歪みに繋がり、歪みこそが美へと変質していった人間の業の深さを感じつつも、それらを純粋な美に昇華せしめている清水真理人形の魅力に圧倒された。

今展示のフリークスたちは、精神との連動で身体が表現されているわけではない。“かたち”そのものを純度高く抽出し、神性を付与させ、異形美という名のゴシック美学が凝縮した絢爛たるサアカス小屋の世界が創造されていたのだった。

どうやら、わたしはもうしばらく“そこ”から逃れることは出来なそうだ。
2010.04.12(23:25)|展覧会感想コメント(0)トラックバック(0)TOP↑
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