紅茶や珈琲の色素が随分と沈着してしまった、お気に入りのティーカップを漂白剤液に浸ける。換気のために窓を開け放つ。吹き込んでくる風に雑じって鼻を突き刺す塩素の匂いが、遠い昔のプールの記憶を呼び起こす。

中学校の水泳の授業、僅かに与えらた自由時間のなかで響く、クラスメイトの笑い声と喧騒。水飛沫、ぎらぎらと照りつく太陽。わたしは一人、水のなかに何度も沈み込んでは呪詛を吐く。「死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ――」。プールサイドで、いつも青い顔をして見学している、あの子だけは助かってもいい。でも、他はみんな死んでしまえ。わたしの憎悪がプールの水に溶け込んで毒と化し、みんなが悶え苦しんで死ぬのを想像する。笛が鳴らされ、自由時間が終わる。クラスメイトたちは残念そうに整列を始める。わたしもプールサイドに這い上がって列に並ぶ。泣きつかれた後のようなだるい体で、なんだか本当に泣きたくなってこっそりと泣いた。

――塩素の匂いは嫌いじゃない。近くで吸い過ぎてしまった為か、軽い頭痛がした。カップが白くなっていく。わたしの心の中には相変わらず憎悪や嫉妬がぎちぎちと詰め込まれている。目が痛い。

買ったばかりのように白くなったティーカップを眺めて、わたしはほんの少し泣いてみた。
2011.02.06(22:21)|思考文章コメント(0)トラックバック(0)TOP↑
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