街中で、ひとりの人物に目を奪われた。これといった特徴の見当たらない凡庸としか言いようがない容姿の人物であったが、胸に、美しい女性とも男性ともつかない横顔が彫られている、カメオのブローチを留めていた。わたしはその人物から目を逸らすことが出来ずに、歩き去っていくその姿をただ見つめていた。どうしてこうも鼓動が早打つのか、ああ、これが一目惚れというものなのか、
恋に落ちたのは、その人物にではなく、カメオの美しい彫刻に対してであったのだけれど、“わたし”は真実に気付くことなく、初めての恋に心躍らせる、――そんな体験を味わっている人がこの世界のどこかにいてほしい。
恋に落ちたのは、その人物にではなく、カメオの美しい彫刻に対してであったのだけれど、“わたし”は真実に気付くことなく、初めての恋に心躍らせる、――そんな体験を味わっている人がこの世界のどこかにいてほしい。