蝙蝠と蛞蝓の宴展覧会感想
> 桑原弘明 展
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随分と時間が経ってしまったけれど、書いたままにしていた【桑原弘明展】の感想を載せておきたい。

スコープ作家である桑原弘明氏の個展が昨年ギャラリー椿で行われた。
以前から好きな作家さんではあったが、実際に触れたのは企画展で出展された作品一点でしかなく、個展に行くのは初めてだった。
ギャラリーに入ると展示室の壁に沿って順々に箱が取り付けられている。
銅板で造られたその小さな箱がスコープとなっているのだ。細やかな装飾が施されているのでオブジェとして見ても美しい。

個展では、一日に三回の上映時間が決まっており、時間になると展示室の明りは落とされる。
明りが消された暗い室内を、黒服に白い手袋をした係りの人たちが、懐中電灯を手にひとつひとつのスコープの横に立ち、一列に並んで待っているわたしたちを、レンズの前にと案内してくれる。
それだけでもなにやら現実離れしたような空間が形成されていて、日常が身体からゆっくりと流れ出していくような、奇妙ながらも心地良い感覚に包まれていった。

レンズを覗いてみればそこには小部屋が在った。一度は住んでみたいと誰もが思ってしまうだろう、そんな魅力的な部屋だ。
机や椅子は今しがた誰かが座っていたような気配が残る、確かな人の息遣いを感じるのは本当に錯覚なのだろうか……。

スコープには覗く為のレンズだけでなく、他にも丸い小窓が幾つかついている。
覗きながら、懐中電灯でその小窓に明かりを照らしていってもらうと、ひとつの部屋にさまざまな光景が浮かび上がってくる。
朝から夜へとの一日の移り変わりの様を眺めてみれば、切ないような、懐かしいような、いつかの記憶の匂いが鼻先を掠める。

ひとつの小さな造形物にどれほどの無限な空間が広がっているかを、驚きとともに実感出来るのは稀有であり貴重な体験だ。
何らかの強い物語を孕んでいるものは、現実という今我々が立っている場所とそこにて抱えているそれぞれの問題を、暫し忘却させてくれる。
真の虚構の力とはそれほどに強固なのだ。
桑原弘明のスコープ内に広がる小宇宙は、たった数分という短い時間に、完璧に構築された虚構世界に誘ってくれた。
そこでは数分も無限も同じ意味を持っている。

最後のスコープでは、係りの方ではなく、桑原弘明氏ご本人が説明しながら明りを照らしてくれた。
緊張して何を質問したかも忘れてしまったけれど、とても丁寧に応対してくれたことだけははっきりと覚えている。
氏の作品への深い愛情が伺えた。

余談となるが、上映が終了し会場を後にしようというときに、同行していた友人と暫し逸れてしまった。
ふらふらと探し歩きながら、ふと、もしやあのスコープの中に入り込んでしまったのではないだろうかと、今スコープを覗けば部屋の奥にひっそりと佇む友人が見られるのではないかと、そんな想像が脳裏に過ぎった。

小さな部屋を巡る冒険を締めくくるに相応しい出来事であった。
2009.01.19(21:47)|展覧会感想コメント(0)トラックバック(0)TOP↑
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