蝙蝠と蛞蝓の宴展覧会感想
> 人形と仮面
先日、紀伊国屋書店の画廊で開催されている『エコール・ド・シモン展』へ行き、そこで中嶋清八という作家の作品と出会った。一目で心を掴まれた。氏の作品は、木の枠のケースのなかにそれぞれ標本のように収められている四つの仮面であった。日本の伝統的な能面の様式を取り入れつつも西洋的ともいえる現代感覚のなかで生成された、幽玄でありながら華やかで、なんともいえぬ妖しい魅力が発散されている。三枚の男面と一枚の女面。顔の造形、艶やかな肌の質感、繊細な表情、それらがまるで液体のように体内に注ぎ込まれていく。

エコール・ド・シモン展は人形作家四谷シモン氏による人形教室の展覧会だ。そのなかで仮面を人形として展示する大胆さにも驚かされた。成る程、顔とはその人間の要約である。わたしが面を付けたときに見るものに訴えかけるのはわたしではなく面だ。仮面は主体となり、身体は人形と化す。だとすれば、人形として展示されていることになんら不思議のある訳もなく、いや、人とは外部から認識され表層によって定義される存在と考えれば、身体は傀儡となり面だけが生を持つとも言えるのかもしれない。

わたしはいつも何かしらの物語に触れていたいと願っている。その物語を体験するためにギャラリーを巡り本を読み映像を見る。日常に埋没してしまえばどんな事柄でも全ては希薄で平坦で味気なく、だからこそ大いなる物語に自分を一瞬でも浸したいと欲望する。その瞬間の快楽は何物にも代え難い。

四つの顔にはひとつひとつの物語が付与されていた。女の面からは仄かに蒼い情念のような炎を感じる。そして“物語”は幻想によって強度を持ち“人生”に置き換えて体感することが可能だ。わたしはこの四つの“物語”のなかでも、そのなかのひとつの、若い男の顔の面に惹きつけられた。魅入られたと言う方が正しいかもしれない。素晴らしき面には魔力が宿るという。ならば魅入られるという表現の方がよく似合う。

きっとこれは恋だった。恋をしたのだ、この青年の面に。この青年が持つ“人生”に。だからわたしは、少しばかり笑みを浮かべて、美しく、艶かしく、官能的ですらあるその顔を、ただただじっと眺めてみた。

サイト: 中嶋清八ブログ
2009.03.24(22:49)|展覧会感想コメント(0)トラックバック(0)TOP↑
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